私達は結婚したのでもう手遅れです!
第1話 春告鳥
老舗和菓子屋『柳屋(やなぎや)』はお寺の多い寺町の一角に店を構える歴史ある和菓子屋だ。
竹林やお寺に囲まれた中に店があって、早朝と夕暮れ時には鐘の響く音が聴こえてくる。
そんな風情ある街並みで生まれ育った私、柳屋(やなぎや)羽花(うか)はぼんやりしているとか、のんびりしているとか言われている。
たぶん、この町の時間の流れ方がゆっくりなせいだと思う。
今日もいつもと同じ朝―――店の前を掃除して、暖簾をかけて、工場から運ばれてきたお菓子を並べる。

「今日もいい出来ね」

職人さん達の一番上、父の腕は確かだ。
お店で働く私は父をはじめとする職人さん達が作った上生菓子の見本品を飾っていく。
上生菓子は高級品でとても繊細な和菓子。
おいしく食べれる日数も短い。
上生菓子には季節の風物詩を表現したデザインがあり、味だけでなく見た目にも美しい。
そっと見本品の一つである(うぐいす)を手のひらの上にのせる。
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