私達は結婚したのでもう手遅れです!
難しい顔しか見たことがなかった父の安堵した表情に私も胸をなでおろした。
父あっての『柳屋』なんだから。
私に頭を下げるようなところを職人さん達に見られたら大変だ。
父の威厳に―――引いては『柳屋』の名にかかわる。
正座をし、姿勢を正して父に言った。

「お父さん。私はもう柳屋羽花じゃないけど、誕生日には私の上生菓子を作ってね」

「わかった」

それは特別なお菓子。
私の誕生月に毎年、出てくる上生菓子の『卯の花』―――真っ白な花を見て羽のようだと思った父が私の名前を羽花と名付けた。
離れていても私はこの『柳屋』のことは忘れない。
私は生まれ育った大切な場所に別れを告げた。

―――私は柳屋羽花ではなく嶋倉羽花となったのだった。
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