私達は結婚したのでもう手遅れです!
玄馬の強い瞳が揺らいだ。

「俺も羽花から手を引く。だから、お前も手を引け」

「嫌だ!」

嫌なのはお前だけじゃない。
俺だって同じだ。
だけど。

「大きくなったら、羽花を迎えにいく」

「一人前のヤクザになってか?」

返事ができなかった。
長い間、嶋倉組はこのあたりを取り仕切ってきた。
それがじいさんの自慢だ。
けど、ヤクザじゃ羽花を迎えにはいけない―――迎えに行けるのはきっと。
砂で作った城を眺めた。
すぐに壊れる砂の城。

「まだ俺が何者になるか、わからない」

将来なんかわかるかよ。
俺はまだ小学生だ。
夕方の音楽が鳴った。
家に帰る時間だ。
羽花が妹の手を握り、俺に手を振る。

「お城、ありがとう!またねー!ばいばーい!」

ポケットの中にある金平糖の瓶を握りしめた。
『また』は当分やってこない。
俺のことをきっと忘れてしまうだろう。
それは玄馬も同じ気持ちだった。

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