私達は結婚したのでもう手遅れです!
ちょうど夕方の寺の鐘の音が響いて、近所の子供達が家に帰る姿が見えた。
それを冬悟さんは少しだけ懐かしそうに眺めて言った。

「これを一緒に出しに行こう」

差し出されたのは二人の名前が書かれた紙。

「……婚姻届!出していなかったんですか?」

「ああ」

「どうして」

驚いて冬悟さんを見ると私の頭を優しくぽんほんっと叩いた。

「羽花が俺を好きだとわかるまで出さないと決めていた」

「私は冬悟さんのことが好きでしたよ?」

「俺の全部を知ってもってことだ」

「私の好きは全部好きだっていう意味です」

「だから、羽花……そうやって無意識に……いや、わざとか?」

「私、なにかいけませんでしたか?」

「いや……」

ごほんと冬悟さんは咳ばらいをして、私に向き直る。
微笑んだ顔は公園で私にお城を作ってくれた面影が残っていた。
懐かしいと愛しいは少し似ている。
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