私達は結婚したのでもう手遅れです!

悪い取引

冬悟さんがヤクザ(元)だっていうのは私もちゃんと理解していたよ。
話も聞いたし、どんな冬悟さんだって受け止めてみせる。
そう思っていた。

「おかえりなさいませ!!!」

「ようこそいらっしゃいました!姐さん!」

実際はすごい迫力だった。
玄関前に冬悟さんの車がとまるなり、駆けつける強面な男の人達。
しかも、玄関前で両脇にずらっと整列して頭を下げている。
思わず、冬悟さんの腕にしがみついてしまった。

「おい、お前ら。その挨拶やめろって言っただろうが」

「いやー、ついクセで」

「すんません。体がもう反射的に動いちゃって」

冬悟さんに叱られ、はははっと笑いが起きたけど、私の顔はたぶん引きつっていた。
はっ!
いかなる時も笑顔!
『柳屋』で鍛えた接客の力をここに取り戻さなくては。
キリッとした顔で冬悟さんから腕を離し、拳を握りしめた―――のに、冬悟さんは自分の腕に私の手を戻した。
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