私達は結婚したのでもう手遅れです！

黒【冬悟】

夜の闇は嫌いじゃない。
深く染まるその闇色の中に人工的な光がちらちらと目に入る。
ホテルの部屋にもその光が入って来た。

「学生のうちからこんなところに出入りして大丈夫？」

「こんなところって？」

吸っていた煙草を奪われ、唇を重ねられそうになったのを仙崎が止めた。

「帰りますよ。冬悟さん」

「迎えがきたか」

「気が利かないわね、仙崎。もうちょっと冬悟さんと遊ばせてよ」

「冬悟さんは大事な嶋倉の坊ちゃんですので」

俺を誘惑するために見せた胸を隠そうともしない女は毒々しく笑った。

「なに？私に坊ちゃんが誘惑されるのが怖かった？」

「そういうわけではありません」

誘惑なんかされてねえよ。
されてやったふりはしたが。
それは必要だったからだ。
だいたいお前みたいな女に俺が誘惑されるか。
心の中で毒づいたが、ただ笑って返した。
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