私達は結婚したのでもう手遅れです！
言いたいことはわかっている。
ホテルの地下へ車を回した仙崎が俺に尋ねた。

「冬悟さんどうします？帰りに寄りますか」

「ああ。頼む」

俺の日課でもある『柳屋』で働く羽花を遠くから見ること。
それが俺の唯一の癒しだった。
羽花がいる限り、俺は真っ暗な闇の中には落ちていかない。
車は市内でも寺の多い場所を目指す。
『柳屋』は寺町の中にあり、暗い夜の闇の中で白い光を放っていた。
まだ高校生の羽花が真剣な顔で店で仕事をしているのが見えた。
疲れているのか、眠そうにうとうととして、また目を開ける。
継母が家の裏口から出て、遊びに出て行った。

「あの女。あなり遊び歩いていますねぇ」

「そうだな。嶋倉の息がかかったホストクラブにも出入りしているらしいぞ」

「見張っときます！」

「ああ」

竜江は頭の回転が速い。
俺がすべて言わないでも察して動く。
便利な奴だ。
羽花は電気をパチンと消した。
< 273 / 386 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop