私達は結婚したのでもう手遅れです!
店が暗くなる。
その店の暗闇を俺が眺めているのを見て、竜江が言った。

「別に声くらいかけたっていいんじゃないっすか?」

「駄目だ。学生の俺じゃ何もできない」

「そんなもんですか。冬悟さんは十分、俺なんかより何でもできてると思いますよ」

「そうだな」

「そこはなんかフォローしてくださいよ!」

竜江は不満そうだったが、フォローする気はなかった。
微塵もない。
むしろ、その一言多い性格をどうにかしろよと思っていた。

「羽花に近寄るためには足を完全に洗って、俺にもっと力がないと駄目だ」

「はぁ……」

どれだけ強く鳴るつもりだよ、と呟くのが聞こえたが、無視した。
竜江はそれ以上、何も言わずに黙っていた。
あまりよけいなことを口にすると痛い目にあうことは知っている。
仙崎に至っては無駄口を一切たたかない。

「嶋倉の家に帰るぞ」

「へーい」

「了解しました」

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