私達は結婚したのでもう手遅れです!
人気の苺大福はショーケースの真ん中でその存在感を見せつけている。
女王様のように。
―――でも、私は鶯。

「へ、へぇー。そうなんだー。私もとうとうモデルになるなんてね。わぁーうれしいなー、かわいいなー」

完全に棒読み。
抜けてるとか言わなきゃよかった。
そう思いながら、緑の背中に小さな梅を背負った鶯をそっとケースに並べた。
上生菓子が並ぶと『柳屋』の職人さん達の腕が目に見えてわかって誇らしい気持ちになる。
この小さなお菓子の中に季節を表現する技術。
一目見ただけで季節を感じられるなんてすごいことだ。
だから、私は和菓子の中でも上生菓子が一番好きだった。
でも、他のお菓子より特別だから、ちょっとお値段が高い。
これを買いに来るお客様は茶道の先生か、お寺の関係者か。
そして、いつもの常連さん―――

「いらっしゃいませ」

お客様が入ってきたのが見えて、深々と頭を下げる。
< 3 / 386 >

この作品をシェア

pagetop