私達は結婚したのでもう手遅れです!
職人さん達はなにも言わないけど、毎年、私と百花の誕生月には新作の上生菓子を作ってくれる。
工場の中ではちょっとしたコンテストみたいになっていて、誰が新作の権利を得るか競い合っていた。
白餡に薄い桃色の色をいれて、白からピンクへとグラデーションに桃の花びらの細工をのせたもの。
見た目は素朴だけど中には緑の若桃の甘露煮が入っていて、食べると三月なのに桃の風味がする『桃』の上生菓子。
権利を勝ち取ったのは父の作品だった。

「店なら平気ですよ。部下が矢郷(やごう)のことは始末してくれているでしょう」

「冬悟さんがいてくれて心強いです」

「何も心配はいりません。向こうの目的は羽花さんです。羽花さんがいないとわかれば、店からおとなしく離れていきますよ」

「はい……」

そうだった。
私のことが目的だって言っていた。
店に私がいなければ、これ以上嫌がらせのしようがない。
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