私達は結婚したのでもう手遅れです!
ただ風呂にいつはいるか聞いただけのようだった。
俺が落胆していることにも気づかず、羽花はいそいそと部屋を出て大浴場に行ってしまった。

「あいつは本当にタチが悪いな」

いや、誘われていると思った俺がおかしいのか?
でも、せっかくだから一緒に入りたかったというのは贅沢な考えなのだろうか。
はぁっとため息をついた。
羽花に一喜一憂される俺。
他の女じゃこうはいかない。
羽花が拾った青もみじが窓際のテーブルに置いてある。
それをそっと指でつまんで口づけた。

「まあ、いい。今は昔と違うからな。何度でも温泉にこれる」

不自由だったのは羽花だけじゃない。
俺もだ。
嶋倉の家に縛られ、ヤクザと何度も言われた。
やっと足を洗って、まともになった。
これからだ。
俺達が一緒に生きていくのは。
そっと青もみじをテーブルに置いた瞬間、ぱたぱたと草履の音がした。

「冬悟さんっ」

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