私達は結婚したのでもう手遅れです!
あったとしてもないって答えるよね。
冬悟さんは簡単に嘘をつく。

「羽花」

手を伸ばし、髪をなでる。
自分の体の上に座らせ、抱きしめた。

「冬悟さんは私に言ってないことがたくさんありますよね?」

「ある」

私の目を見ずに髪に顔を埋めた。
そこは正直に言うんですねと思ったけど、きっと言わないってことは聞いて欲しくないことなんだってわかる。

「私に全部言わなくていいですから、大事なことだけ教えてください」

「わかった」

次はちゃんと私の目を見て返事をした。
そして、唇を重ねる。
浴衣の襟もとからするりと手を忍ばせ、肌に触れられた。
なんだかいつもと違う―――これは。

「冬悟さん。温泉の匂いがします」

「羽花もだ」

二人で笑った。
同じことを考えていたんだとわかって、なんだか嬉しかった。

「温泉はいいな。羽花が色っぽい」

私が『色っぽい』!!
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