私達は結婚したのでもう手遅れです!
「礼華のことを知りたいのなら話しますよ」

「いえ。礼華さんのことは別に……」

婚約者がいたと知って気になったのは嘘じゃないけど。
それ以上にショックだったのは―――

「俺の周りに女がいても羽花さんは気になりませんか?」

あごをつかまれ、顔を近づけられると心臓がぎゅっと締め付けられたように苦しくなった。

「そっ、そうじゃないんですっ」

冬悟さんから遠ざかろうと体を引き、必死に自分の気持ちを隠して言葉を否定した。
それなのに冬悟さんの強い力であっさり体を抱きしめられてしまった。
ガタンッと椅子が大きな音をたてて倒れても冬悟さんは動じない。

「い、椅子が……」

「羽花さん、思っていることを正直に言ってください」

低い声が耳元で響く。
かかる息にぞわりと体が震え、体にしがみついた。
これって、完全に誘惑されているよね?

「全部」

抵抗力を奪うような声がたまらない。

< 86 / 386 >

この作品をシェア

pagetop