嘘の花言葉
 私にだって女子力くらいあるし。コンパクトミラーを見ながら、お気に入りの色付きリップクリームをたっぷり塗る。唇がほんのり桜色に変わった。

 これで、街角で男子とぶつかる運命の出会いのスタンバイオーケー! ……まあ私、ほぼ自転車通学なんだけどね。

 放課後、独りで帰路についた。自転車で坂道を下りながら、学校の最寄り駅まで向かっている。最寄り駅といっても、結構距離があるから全然最寄りじゃないけど。地元の駅から家までは近いのがせめてもの救いだ。

 季節は春。ついこの前まではあっという間に日が傾いていたのに、今日はまだまだ明るい。日が長くなったなぁと感じる。

 ぽかぽかする日差しの中自転車を漕いでいると、ふとさっきの夢を思い出す。
 あの想士って人……優しくて、飄々としてて、ちょっと良い感じだったな……。
 いやでも! 私の理想は、もっと背が高くて、細マッチョで、塩顔の男子だ。こんな人が目の前に現れないかな~。

 流行の曲を鼻歌で歌っていると、唇に何かついている感じがした。
手でこすってみる。なんと、コバエみたいな小さい虫がくっついていた。

 うぎゃぁぁぁぁ、最っ悪!
 虫大嫌いなのに! 

 早く唇を濯ぎたい。最寄駅まで急いで自転車を漕いだ。
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