嘘の花言葉
「何度も言ってるだろ、姫。僕が死んだら、誰か別の奴と幸せに暮らせって」

 想士は深く息を吐いた。

「そういうことじゃないのよ。こんなの、もう、嫌なの」

 初めのうちは感激した出会いも、別れがくると解ってからは安易に喜べなくなった。そして今では、一緒にいることを選択し続けることが間違っているんじゃないかとさえ思えてきている。

 もはや前世の記憶があることなど、迷惑なだけだわ。
 一緒に過ごしていても、一年しかいられないと解っているから辛いのよ……。
 どうしてこんなことになってしまったの? 彼が陰陽寮の火災で死んだとき私が、「想士と来世でも巡り会わせて下さい」と神に祈ったのがいけなかったのかしら……。

 視界がぼやけた。勘違いしないで欲しいんだけど、私はメソメソ泣くような弱い女じゃないわ。だから頬に伝うこれは涙なんかじゃなく……ダイヤモンドよ。
 想士がそっと私の頬に触れ、零れ落ちる粒を拭う。繊細なガラス細工に触れるかのような仕草だった。

「僕もそろそろ引き際だと思ってた。もう、終わりにしよう」

 落ち着いた声色で、そう告げる想士。真っ直ぐに私の目を見据える。
 私は口の端から入ってくるものにしょっぱさを感じながら頷いた。
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