嘘の花言葉
 料亭を出た私たちは、家路の途中にある月天橋(げってんきょう)をゆっくりと歩く。

 夜空に浮かぶ朧げな月は、今の私の心情を表しているかのよう。

 ……想士は、まだ私のことを好いていてくれていたのかしら。

 別れ話をしたばかりなのに、そのことが無性に気になった。今を逃したら永遠に聞けなくなってしまう。どうにかして聞きたい……。

 すると想士が、着ていたジャケットを脱いで私の肩にかけてくれる。

「寒かろう」

 4月上旬の夜の屋外はまだ肌寒く、ワンピースに薄手のカーディガンを羽織っているだけの私は鳥肌が立っていた。

「あら気が利くじゃない」

 気丈に振舞うが、本当は優しさで胸が締め付けられる思いだった。ここにきてもまだ、想士との時間が一秒でも長く続けばいいのに……と願ってしまいそうになる。

 昔から彼は優しかった。

 ――平安時代の記憶が思い起こされる。

 毎晩欠かさず同じ夢を見る私をひどく心配した父上が、夢の吉凶を占わせるため陰陽師を手配した。たわいもない夢だったので、私はそんなことでわざわざ陰陽師を屋敷に呼ばなくていいのにと思ったけれど……。

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