嘘の花言葉
 こうして呼ばれてやってきたのが想士だ。彼は、当時最先端の学問であった天文学に長けた最年少の陰陽師。

 私は裳着を済ませたばかりの姫だった。そんな私に大抵の男たちは物怖じしてどもるか、すぐ媚びへつらった。

 だけど彼はそのどちらでもなく、無邪気な感じで世間話を始めた。御簾越しだったから顔は見えなかったけれど……他の誰とも似ていない、飄々とした男だと思った。 

 端的に夢の内容を伝えると、彼はきっぱりと「凶夢で御座います」と言った。
 さらに式盤を用いて占い、対処法をスラスラと語りだした。

「物忌みされることをおすすめ致します。近々行われる行事で凶事が起こりますゆえ」

 助言されながらも私は、酷く戸惑っていた。
 生まれた瞬間からかしずかれて育った私には、想士はとても異質な存在だった。

 突然胸が高鳴りだし、変な術でも使ったのかと不審に思い無理やり屋敷から追い返した。それでも胸の動悸は収まらなかったが……。

 あの助言も信用できなかったから、物忌みはせず平気で行事に参加した。
 しかし占いは的中。牛車を引く牛が暴れ、大惨事に。

 翌日想士から手紙が届いた。侍女から手紙を受け取った瞬間にもう、内容は予想がついていた。言う通りにしなかった私への非難か、自分の占いが当たったことの自慢だろう、と。恐る恐る手紙を開いた。

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