嘘の花言葉
「想……」

 立ち止まり、想士の目を見た。

「……そうね。本当に京都は久しぶり……」

 やっぱり聞けないわ。今更「私のことが好きか」なんてみっともなくて。
 想士から視線を逸らし、夜空を見上げる。幾千もの星たちが淡い光を放っていた。

「ねぇ、あの星は何ていうのかしら?」

 別の話題にすり替える。
 私が指差す先の星座の名を、想士はすぐに答えてくれた。天文学の知識が豊富な想士はよくこうして、星座のことを教えてくれる。想士の話を聞いていると、私も賢くなれるようで楽しい。

 星座の話をしながら歩いているうちに、大きな桜の木までたどり着いていた。
 足元の照明に照らされている、枝垂桜。既に満開を迎えた後で、わずかに散り始めている。
 薄紅色の花が儚げに散る様は、息を呑むほどに美しい。

「……綺麗ね」

 千年前のこの季節、ここで想士と会えていたら……。

「陰陽寮が火事になってよかった」

 信じられない言葉に、自分の耳を疑った。

「え……何故そんなことを……」
「だって。蝶よ花よと育てられた深窓の姫君が、駆け落ちなどできまいよ」

 昔を思い出しているような、遠い目をしている。
 確かにあの頃の私が駆け落ちしていたら、想士に迷惑ばかりかけることになったでしょう。俗世のことなど何も知らなかったんだもの。
 でも、口に出してそう言われると反論したくなった。

「できたわよ! いざとなったら、田畑を耕したわよ!」

 むきになる私を見て想士が笑う。

「強がりなところも、相変わらずだ」
< 8 / 19 >

この作品をシェア

pagetop