嘘の花言葉
 ひらりと落ちてきた花びらを掴む私に、想士は尋ねた。

「ところで姫。桜の花言葉を知ってる?」

 首を横に振る。

「『あなたを永遠に愛しています』……それが桜の花言葉」

 強い風が吹いた。想士の背後を華々しく彩る桜吹雪。
 想士が教えてくれることは天文学に関係することが多いが、時たまこうして雑学を教えてくれることもある。
 しかし花言葉について教えてくれるのは初めてだと思う。

「へえー、やっぱり想士は物知りね」

 そう感心する私に、彼は無言で背を向けた。

「…………」
「想士……?」

 そして、そのまま去って行く。永遠のお別れだというのに、さよならの挨拶もせずに。

 千年前と変わらず、彼は飄々としていた。
 どういう気持ちなのかわかりにくくて、捉えどころがない人だ。
 結局、想士が私のことを好いてくれていたのかどうかは聞けなかった。
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