闇夜ヨルの恐怖記録 5
☆☆☆

「ただいま」


少し沈んだ声で言って玄関を上がると、リビングからお母さんが顔を出した。


「アサミ、もう帰ってきたの?」


「え? いつも通りの時間だよ?」


「あら、本当? さっきニナちゃんのお母さんに会ってね、ニナちゃんはまだ学校で練習してるって聞いたから、てっきりアサミも遅いのかと思って」


お母さんは悪気なく笑う。


「コンクールのことも聞いたの?」


リビングへ戻っていくお母さんを追いかけてその背中に質問した。


「えぇ聞いたわよ。ニナちゃんも選ばれるかもしれないのよね?」


ソファに座りながらなんでもないことのように言う。


アサミは目を見開いて母親を見つめた。


私は嘘をついてしまったのに、どうしてそんな風に平気でいられるんだろう。


てっきり怒られると思っていたアサミは戸惑った。


「でも大丈夫よ。アサミが選ばれるに決まっているんだから」


お母さんはアサミの方を見もせずに、そう言い切ったのだった。
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