闇夜ヨルの恐怖記録 5
アサミは唖然として声も出せずに立ち止まった。


ニナの音はこころの響くようでとても深くて切ない。


しかしテンポのいい曲になるとまるで飛び跳ねるように楽しげに吹き始める。


ニナ自身もそれを楽しんでいるようで、時折笑顔を浮かべていた。


「ニナ、最近また上手くなったみたい」


サトコが近づいてきて耳元で言った。


そうしないと声が聞こえないからだ。


「ふぅん」


内心感じている動揺をさとられないように呟き、練習の準備を始める。


どれだけニナが頑張ったってどうせ私の足元にも及ばない。


いい加減諦めればいいのに。


往生際が悪いのだと思いながら、フルートに口をつける。


アサミがそうやって練習の準備をするだけですでに数人の生徒たちが集まってきていた。


アサミの奏でる音が聞きたい。


その思いがそれぞれの表情から溢れ出しているのがわかった。


そして最初の一音。


それは思っていた通りの音だった。


楽譜通りの音。
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