闇夜ヨルの恐怖記録 5
だけどなにかが足りない。


さっきニナの音では心が震えた感覚がしたが、それがない。


アサミは焦って次の音を奏でた。


音階もメロディも完璧だ。


だけどそれだけ。


前みたいに胸にズンッとくる音楽がそこにはなかった。


それに気がついた生徒たちが互いに目を見合わせはじめる。


アサミに聞こえないようになにかささやき始める。


それでもニナよりも自分の方がずっとずっと上手なはずだ。


ちょっと練習を休んでしまったから、調子が出ていないだけ。


こんなのどうってことない。


だってほら、ちゃんと吹けているから。


一曲吹き終えたとき、アサミの背中にはじっとりと汗をかいていた。


いい意味の汗ではなく、冷や汗だ。


音が消えてシンと静まりかえる。


その後拍手が起こるのはいつもどおりだったけれど、みんなどこかとまどっていて、拍手の音も小さかった。


「アサミ、今日も上手だったけどなんか違うね?」
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