闇夜ヨルの恐怖記録 5
サトコに言われてアサミは無理やり笑顔を作った。


なんでもないように振る舞わないといけない。


「ちょっと演奏の仕方を変えてみたの」


「そうなんだ? 私は前の方が好きだったなぁ」


そんなのわかってる。


前まで私はみんなの心まで震わせるような音を奏でることができていたのだから。


お隣さんのお婆ちゃんが笑ってくれて、文芸部の子たちが聞き惚れて。


そんな音だ。


「そ、そっか。じゃあ水曜日までにはもっと練習しておくね」


アサミは早口でそう言い、帰る準備を始めたのだった。
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