闇夜ヨルの恐怖記録 5
だけど、今のサトコにはそれが禁句だったようだ。


ずっとうつむいていたサトコはゆっくりを顔を上げる。


その目には涙の膜がはっていて、アサミは絶句してしまう。


「アサミは能力があるもんね。だからそんなことが言えるんだよ」


「ち、ちがっ」


慌てて否定しようとしても、その言葉すら遮られてしまう。


「みんなからちやほやされて、本当に心が動くような演奏をしてる。そんなアサミに相談しても仕方ないことだったよね」


サトコはフフッと軽く笑うと、頬に一筋の涙がこぼれ落ちた。


それをぬぐいもせずに立ち上がり、教室へと戻っていく。


アサミはその背中を追いかけるために立ち上がったが、両足がコンクリートでかためられてしまったかのように動くことができなくなってしまったのだった。
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