闇夜ヨルの恐怖記録 5
☆☆☆

結局、その日サトコは吹奏楽部に顔を出さなかった。


サトコのことが気がかりで練習では思うような音も出せず、全然集中できなかった。


だけどそれは言い訳にしかならない。


プロの奏者たちは自分の身になにがあったって、いつでも同じ音を奏でることができる。


それも人の心を震わせるような音だ。


私生活で友人と喧嘩をしても、たとえば身内の誰かが亡くなってしまったとしても、それは変わらないんじゃないだろうか。


むしろ、様々な経験を乗り越えるからこそ出せる音もあるかもしれない。


「サトコ、今日は部活に出るよね?」


翌日の火曜日、昼ご飯を終えた後でアサミは隣のクラスへ向かった。


「わかんない」


サトコは左右に首をふりながらもどこか楽しげな表情をしている。


昨日は泣いていたのに、どうしたんだろう。


「サトコ、昨日あの後なにかあった?」


「別に、普通に友達と遊びにでかけただけだよ。高校生の人も一緒だったからカラオケとかにも入れたの」


サトコは本当に楽しそうな声で答える。


「高校生の人? 誰それ、いつの間にそんな人と仲良くなったの?」
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