闇夜ヨルの恐怖記録 5
「アサミ、入るわよ?」


いつもはそんなこと気にせずノックもなしで入ってくるのに。


そう思いつつ「うん」と返事をすると、母親が申し訳無さそうな顔で現れた。


「練習頑張ってるのね」


「うん。明日でソロパートが決まるから」


「そう。でも、その、練習は学校でやったほうが良いかもしれないわね」


「え?」


アサミは瞬きをして母親を見つめた。


今までは家で練習していてもそんな風には言われなかったのに。


「ほら、ご近所さんにも騒音になるし、ね?」


騒音?


アサミは一瞬どういうことなのか理解ができなかった。


だけど次の瞬間、自分の演奏が騒音だと言われたことに気がついた顔がカッと熱くなる。


「私の演奏、そんなにひどい?」


「そ、そうじゃないの。だけど前に戻った感じはするかしら」


言いにくそなお母さんにアサミはフルートを見つめた。


前に戻った。


つまりこの種を育てる前の演奏ということだ。


「練習していればきっとまた上手になる。だけど、場所はわきまえないとね?」


アサミはもうなにも返事をせず、フルートを片付け始めたのだった。
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