闇夜ヨルの恐怖記録 5
アサミもそれは同じだった。


同時に負けてしまったと思った。


今の自分にはこれほどの演奏はできない。


あの種のおかげで上達していたけれど、それをいいことに練習を怠けてしまった。


そのため花は枯れて、能力も枯れた。


ニナの演奏が終わると同時に部室内に大きな拍手が響いていた。


アサミも同じように力を込めた拍手を送る。


「いい演奏だったわね。ここ最近すごく上手くなっているし、よかったと思うわよ」


先生にも褒められてニナは頬を赤らめて自分の席へと戻っていく。


「次はアサミさん」


名前を呼ばれて、部員たちの期待の目がこちらへ向けられる。


しかしアサミはなかなか立ち上がることができなかった。


自分の能力はもう消えた。


だからこうして選ぶ必要だってないんだ。


「あの、先生」


恥を晒してしまうよりはいまここで辞退しよう。


そう決断したアサミを遮るように大きな拍手が聞こえてきて振り向いた。
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