【書籍化】利害一致婚のはずですが、ホテル王の一途な溺愛に蕩かされています

そんな、ことのはじまりは、およそ一ヶ月前。まだ雪のチラつく二月。
その日、私は二次災害ともいえる精神的ショックをお酒で緩和していた。

「もう。だからあいつはやめておいたほうがいいって言ったのに……。女好きだし調子いいし」

「だって、結婚しようって言ってくれてたんだよ……?」

「本気なら他の人と子供作るわけないでしょ。相手はもうすぐ安定期らしいわよ」

再び現実を突きつけられて、さらにブワーッと悔しさがあふれる。

居酒屋のカウンターに突っ伏しておいおい涙を流すと、幼馴染みで同僚の瀬谷(せや) みゆきが、間もなくやってきたビールと枝豆を勧めてくれた。

周囲からちくちくと視線を感じるけど、今夜くらいは泣かせてほしい。

私、小道(こみち)咲笑(さえ)、二十五歳は、三年間付き合っていた彼氏、井上 友樹(いのうえ ともき)と、一週間前に破局して、本日の終業後、後輩との結婚報告を、同じ部署の仲間と共に聞いてきたところだ。

「今日はとことん付き合うから元気だして。あんな女好き別れて良かったわ。咲笑にはもっと素敵な人が、いるって」
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