わけあってイケメン好きをやめました
「ダメ。円香の手が痛くなる」

「私の手より、殴られるあの男の顔より、絢音の心のほうがよっぽど痛いでしょ。傷だらけでボロボロじゃないの」


 円香の言うとおり、心は出血多量状態でかなりの痛手だ。自分で思っていたよりも傷が深い。

 おもむろに円香が立ち上がり、「タオル借りるよ」と洗面所へと向かった。
 水で濡らしたタオルをキュッと絞り、戻って来た円香はそれを広げて私に手渡す。


「目、冷やしなよ。腫れすぎ」


 昨日から幾度となく泣いたので、円香は真っ赤になって腫れていた私の(まぶた)を気遣ってくれた。
 今日は休んだけれど、明日はバイトもあるので、できるだけ元の顔に戻さねば。


「アイツ、ほんとに最低ね! 一ヶ月前に二度目の浮気が発覚したばかりだよ? 舌の根も乾かないうちに三度目だなんて信じられない!」


 円香は怒りが沸騰してきたのか、次第に声が大きくなってきた。
 たしかに二度目の浮気から三度目に至るまでの期間は短く、そのあたりから察しても、利樹が悪びれていないのがわかる。


「でも、よくやった! きっぱり別れたんだから」

「え?」

「私ね、絢音は何度浮気されても別れられないかもって、心配してた。決断できてよかったよ」


 そんなふうに円香を心配させてしまっていたようだ。
 だけどその可能性はないとは言い切れなかった。円香は、好きになったら一直線という私の性格を熟知している。

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