わけあってイケメン好きをやめました
 利樹たちが事務所を移籍する話は、付き合っているときですら聞いたことがなかったので、私にはまったく事情はわからない。
 前の事務所となにか揉めていたとか、そんな様子も見受けられなかった。

 きっと、利樹が話してくれなかっただけだ。私に話しても仕方がないと判断したのだろう。
 結局私たちは薄っぺらい関係だったのかもしれない。


「ボーカルの彼が、あれこれワガママを言ってるって噂よ」


“RED PURPLE”は四人組のバンドで、ボーカルの利樹がリーダーとして率いている。
 なにか事務所に物申すなら、もちろんその人物は利樹だ。

 
「美和さん……そういう事情にやけに詳しいですね」

「仕事柄ね、勝手にいろんな話が耳に入ってきちゃうの」


 美和さんがどういう仕事をしているのか、じっくりと聞いてはいなかったけれど、たしか“広告・宣伝関係”だったと記憶している。
 もしかして私の解釈は間違っているのだろうか。


「会社は広告関係……でしたよね?」

「動画を制作する会社なのよ。ウェブのCMだったり、ミュージシャンのMVもあるかな。“再現VTR”みたいなやつもあるわ」

< 20 / 151 >

この作品をシェア

pagetop