わけあってイケメン好きをやめました
「君、バイトを探してるならうちで働かないか? 今度履歴書を持ってくるといい」


 どうやら美和さんが私のバイト事情を虹磨さんに話したみたいだ。
 働くと言っても、詳しい仕事内容がわからないのだけれど……。


「堤! 行くぞ」


 ケーキが並べてあるショーケースを凝視していた美和さんに短く声をかけ、虹磨さんは先に出て行ってしまった。


「虹磨さんが雇ってもいいって。絢音ちゃん、バイトの件は考えといてね。連絡待ってる!」

「え、美和さん!」


 彼女は笑顔で私が手にしている名刺に指をさし、私の反応を待たずに虹磨さんのあとを追った。
 バイトをする気があるなら、名刺の番号に電話をかけろという意味だろう。


 ㈱ゲイン 
 CEO・クリエイター 澤村 虹磨(さわむら こうま)

 名刺にはそう書かれてあった。電話は会社の代表番号と携帯のふたつが並んでいる。
 ……ちょっと待って。CEOって、虹磨さんが会社の社長ではないか。


「どうしよう……」


 思わずポツリとひとりごとが漏れる。
 バイト探しをしなくていいのはとても助かるし、どんな仕事かまだわからないけれど、美和さんがいるのなら心強い。

 条件面も含めて、一度話を聞きに行ってみようかな。

 あの動画の件は心配いらない。時間が経てばふたりとも諦めて忘れるはずだ。

 私は音楽は好きだが、歌唱力もないしギターも下手だ。そんな人物を探し出してどうしたいのだろう。
 とにかくアカウントごと消して、知らないフリをすると心に決めた。


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