わけあってイケメン好きをやめました
「アンプをイジらなきゃ、“ゲイン”を知らないと思うが?」

「ギターは……コードがわかる程度です」


 私が素人なのは本当だから、嘘はついていない、と心の中で言い訳をする。
 もうこれ以上突っ込まないでほしいと願いながら。


「会社を立ち上げるとき、親友のミュージシャンがこの社名を提案してきたんだ。俺に“ゲイン”の役割をしろという意味だったのかもしれないが、俺はやりたいようにやってる」


 もしかしたら、この会社では虹磨さんではなく美和さんが“ゲイン”なのかもしれない。
 そういう調整役のおかげで、みんなが伸び伸びと仕事ができるのだと思う。それはどの会社にも言えることだ。


「それと、守秘義務の話をしておかないとな。この会社で見聞きしたことは秘密にしてもらいたい。プレスリリース前に内容が漏れることがあってはならないんだ。SNSに少しでも書きこむのは絶対にやめてくれ」

「わかりました」


 利樹と付き合っていたので、そのへんはよく心得ている。
 ここでのことは口外禁止だと、あらためて自分に言い聞かせた。


「仕事柄、さっき俺が言ったミュージシャンとか、芸能人がここに来ることもあるけど、隠し撮りとかしないように」


 無言でうなずいたけれど、写真や動画を隠し撮りするスタッフが過去にいたのだろうか。
 ……ということは、わりと有名な芸能人だったのかな?

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