わけあってイケメン好きをやめました
 翌日から私は㈱ゲインで働き始めた。
 仕事はパソコンを使った作業もあるけれど、面接で言われたようにバイトなので雑用も多い。買い出しを頼まれたり、届け物をしたり。


「絢音ちゃん、この中のPDFファイルをプリントアウトしてホチキス止めしてくれる?」


 美和さんから声がかかり、私は「はい」と返事をしてUSBメモリーを受け取る。
 早いものでバイト歴も半月経過すると、こういう仕事はテキパキとできるようになってきた。

 オフィス内で急に、ワァーッという歓声と共にパラパラと拍手まで起こり、なにがあったのかと視線を上げた。
 どうやらうちが提案したプレゼンが通ったとかで、携わった社員さんたちが喜んでいる。
 こうしてひとつひとつ過程を経て、実際に作品が作られていくのだ。


「絢音!」


 社長室の扉が開いたと思ったら、虹磨さんが体を一瞬だけ出して私を呼び、再び扉を閉めた。
 用事があるから来い、という意味だ。

 社長とバイトの間柄なのだから、てっきり名字で呼ばれるものだと思っていたけれど、“えびはら”が言いにくいのだそうで、私だけ下の名前で呼ばれている。
 名字が発音しにくいと言われたことなど今までなかったのに。

 ノックをして社長室に足を踏み入れると、虹磨さんから名刺サイズの紙を渡された。
 よく見ると、それはお店の情報が書かれた“ショップカード”だった。

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