わけあってイケメン好きをやめました
 そう、それは私ではなく円香だ。“妄想彼氏”だとか“心の恋人”だと言って崇拝している。
 思い返してみれば『大和さんのファンなので』と口にしたものの、“親友が”と付け加えていなかったから、私自身が大和さんのファンだと誤解されたのだ。


「あはは。大和、絢音ちゃん自身は違うみたいだぞ?」


 雪哉さんが「お前じゃなくて俺のファンだったりして」などと面白がって突っ込んだせいで、大和さんがムスッとした表情になった。
 怒らせてしまったのならまずい。虹磨さんの大切なお客様なのに。
 正直に訂正しなくてもよかったのだ。バカすぎて穴があったら入りたい。


「親友は私以上に大和さんが好きなだけで、私もファンです!」

「ありがと。じゃあ、これ鞄に入ってたからあげるよ。俺のツアーのグッズ。お友達に渡して?」


 大和さんが鞄から出して、私に見えるように掲げたのはペンケースのようだ。
 ツアーグッズなら、もしかしたら円香は同じものをすでに持っているかもしれないけれど、大和さん本人からもらったとなると意味が違う。
 きっと円香は大喜びするに違いない。


「せっかくだからサイン入れとく」

「ありがとうございます!」


 大和さんは良い人だ。不躾な私に怒りもせず、透明の袋に入っていたペンケースを出して、そこにマジックでスラスラとサインを書いてくれた。

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