わけあってイケメン好きをやめました
 暴言を吐かれているわけではないので、怖くはなかった。
 ただ、この場からうまく逃げようにも、彼と壁に挟まれているので身動きが取れず、どうすることもできない。


「この手、初めて見たときにピンと来たんだよ」


 大和さんが捕まえていた私の右手をまじまじと見つめ、親指の付け根部分を自分の指でなぞる仕草をする。
 そう言われれば初対面のとき、今と同じように手首を掴まれたのを思い出した。


「このふたつのホクロ……絶対にそうだと思うんだよね」


 私の右手には、親指の付け根のところと、その延長線上の手首のところにホクロがある。
 そんなに大きなホクロではないし、なにかの拍子に人に指摘されたことはなかったのだけれど、大和さんは相当気になるようだ。


「前にバズってたあの動画、絢音ちゃんだろ?」


 急に、ズドンとバズーカ砲で撃ち抜かれたような衝撃が走った。

 あの動画を消したのは四ヶ月前だ。私自身ですらもう忘れていたし、美和さんも虹磨さんもあれから動画のことは一切口にしていなかったはずなのに。


「虹磨さんも絶対に気づいてるよ」

「え……あ……」


 どう答えたらいいのかわからず、私は動揺して短く声を出すので精いっぱいだ。

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