わけあってイケメン好きをやめました

「大丈夫か?」


 助けに来てくれた虹磨さんは、私の救世主でありヒーローだ。
 大和さんになにかされたわけではないのに、虹磨さんの低い声を聞いていると、なんだかホッとして泣きたくなってくる。


「だ、大丈夫です」


 か細い声で答えると、後頭部に右手を添えられ、そのままポスンと虹磨さんの胸板に顔が引き寄せられた。
 片手で抱きしめられているような体勢だ。


「ちょっと出かけるぞ」


 虹磨さんは私の手を引いて、大和さんを一階まで降ろして戻って来たエレベーターの中に私を押し込んだ。


「あの! どこに行くんですか?」

「いいからついて来い」

「私、財布とか持ってきてないですけど!」


 こんなことになるとは思っていなかったので、貴重品が入ったバッグは会社のロッカーに入れたままだ。
 幸い、スマホだけはポケットに入っている。


「スマホさえあればいいだろ」


 今の時代、キャッシュレス決済があるからなんとかなりそうではあるけれど、無一文なのは不安だ。

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