わけあってイケメン好きをやめました
 私がシートベルトをすると、虹磨さんは車のギアをドライブに入れて駐車場から大通りに出たが、私はしばらく唖然としていた。

 虹磨さんと美和さんは、喧嘩したことはないのだろうか。
 ムッとしてどちらかが急に電話を切っても、お互いにしこりが残らない関係なのがすごい。


「鋭いよな、堤は。間髪入れずに図星を刺すんだから」


 そう言いつつ、虹磨さんはハンドルを切って高速道路の入口に入っていく。


「え、どこまで行くつもりですか?」

「行けばわかる」


 それはそうでしょうけど、先に知りたいから聞いているのに。


「私、まだ勤務時間中です。あと二時間バイトが残ってます」


 現在午後三時で、今日は五時までの勤務予定だった。
 今の状況はどう考えても仕事の一環だとは思えないので、運転する虹磨さんを横目に小さく抗議してみる。


「だから堤に電話しただろ。バイト代は二時間分カットせずに付けるように言うよ」


 それならば五時までは“仕事中”ということになる。今、この時もだ。
 ……いや、でもバイト代を貰うのはさすがに気が引ける。これを仕事だとは思えない。

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