わけあってイケメン好きをやめました
 私が中途半端に残した仕事は、美和さんがこのあとやってくれるのだろうか。虹磨さんの、さっきの電話一本で?

 急ぎの仕事ではないから、明日まで置いといてくれれば私が続きをやるのだけれど、美和さんはそのままにしておけないタイプだ。
 こうなると私から今電話を入れても美和さんを止められないだろうし、もうなるようにしかならない。そう考えたら小さく溜め息が出た。


「働かないのに、バイト代はいただけません」


 給料は労働の対価だ。美和さんに仕事を押し付ける形になっておきながら、報酬だけはちゃっかりもらいます、というのは道義に(もと)る。


「もっと美和さんを大事にしてください」

「……え?」

「さっきの電話もそうですけど、こんなに虹磨さんを理解してついてきてくれる人はいませんよ?」


 自分でも、なぜ説教めいた言葉を口にしたのかわからない。
 相手は自分を雇ってくれている社長だ。しかも十歳年上の大人なのに。
 立場をわきまえろと叱られても仕方ない、と言ったあとからそんなふうに思ったが後の祭りだった。それに、間違ったことは言っていない。

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