わけあってイケメン好きをやめました
私はウンウンと首を縦に振った。
円香の言うとおり、大和の楽曲の作曲者はその名前が記されている。
性別や年齢など“Xinobu”の詳細は一切不明なので、ファンのあいだで、それはいったい誰だ? 大和の別名かもしれない、などと憶測が広がっているのだ。
「大和も昔は自分で作曲していたし、そのころと今では感じが違うから、“Xinobu”って人は実在すると思うって、利樹と昨日も話してたんだ」
音楽を聴きながらそんな話をしていたら、ますます寝るのが遅くなる。
ミュージシャンの利樹には、早寝早起きなどの規則正しい生活はどうしても難しい。
「絢音たち……本当に元通りなの?」
唐揚げをつまみつつビールを飲む私に、円香が懐疑的な表情で尋ねた。
私は苦笑いの笑みをたたえて、コクリとうなずく。
「よく元に戻れたね。信じられないわ!」
「そんなこと言わないでよ……」
「浮気されたのに、綺麗さっぱり水に流すなんて甘い!」
理解できないとばかりに、円香が箸で唐揚げを乱暴に突き刺した。
きっと怒っているのだろう。利樹にも、私にも。