わけあってイケメン好きをやめました
「寒いだろ」


 自身が着ていた黒のジャケットを脱いで、虹磨さんがそれを私の肩にかける。


「い、いいですよ! 大丈夫です」

「勝手に連れて来たのは俺だし、カッコつけさせろよ」


 わざわざカッコつけなくても、普通にしていても元々とびきりカッコいいのに。
 心の中でひとりごとを言い、厚意に甘えて今だけは上着を借りることにした。

 しばらく海を眺め、ゆったりとした時間を過ごす。それがとても贅沢に感じる。しかもイケメンと一緒だ。


「冷えるな。そろそろ行こう」


 夕日が綺麗だったのだけれど、たしかにこれ以上ここにいると寒いし、じきに日が暮れる。
 虹磨さんが立ち上がったのを見て、名残惜しく思いながら私も腰を上げた。


「せっかくだから飯食って帰らないか? 海鮮がうまい店を知ってる」


 虹磨さんは海が好きそうだったし、この辺りにはよく来るのだろうか。
 気に入ってる飲食店があって、そのためにわざわざ通っているのかもしれない。

< 61 / 151 >

この作品をシェア

pagetop