わけあってイケメン好きをやめました
「姉……ですか。まったくないです。恋愛ドラマを見てキュンとしたりもなくて」

「この前の雪哉のドラマとかよかったのになぁ。ほんと、姉妹で全然違うな」


 細長いグラスに注がれたノンアルコールビールをひと口飲み、虹磨さんは綺麗な顔をくしゃりと歪めて笑う。


「じゃあ、絢音のように音楽もやらないのか?」

「…………」


 私はロブスターにフォークを突き刺したまま、それを口に運ぶことなく、体全体をビキッと固まらせてしまった。

 音楽を“聴かないのか?”ではなく、“やらないのか?”と彼は尋ねたのだ。
 姉はエンタメに関して無知なのだから、答えはノーだとわかっているのに。

 顔が引きつる。手にしていたナイフとフォークをそっと離したものの、視線はロブスターに注いだままで、目の前の虹磨さんには向けることができなかった。

『虹磨さんも絶対に気づいてるよ』
 大和さんに言われたフレーズが脳内に蘇ってきた。

 口の中に残っていたロブスターの味も、おいしいと思えていたはずなのに、もうそれもよくわからないほど私は動揺している。

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