わけあってイケメン好きをやめました
「でも俺は、もう探さなくていいと提案を断った」

「……どうしてですか?」


 そう尋ねずにはいられなかった。だって、ずっと探していたのでしょう?

 虹磨さんはアイスティーをゴクリと飲み、伏せめがちだった視線を上げて真正面から私を見た。


「俺もあの人物は絢音だと思ってた。なら、今さらつきとめなくてもいい。それに絢音は実の姉のように慕ってる堤にも動画のことは話していなかったんだから、バレずに秘密にしておきたい事情がなにかあるのかと……。それを無理やり暴いたところで俺の気分は良くないからな」


 虹磨さんがそこまでいろいろと考えてくれていたのだと知り、胸の中が熱くなった。
 それどころか鼻の奥がツンとして一気に目に涙が溜まり、あっという間にポロリと頬へ零れ落ちる。


「泣くなよ」


 視線を落としてうつむいている私の頭上から、困ったような虹磨さんの声が降って来た。


「今日の大和の行動は、俺が謝るから」

「違います。怒っているわけじゃありません。大和さんが悪い人ではないのはよくわかってます」


 きっと、私が美和さんを慕うように、大和さんも虹磨さんを慕ってのことなのだ。

 大和さんとはいつも挨拶程度でまともに話した記憶はないけれど、バイトの私にも気さくに笑顔を向けてくれてやさしかった。
 今まで画面を通じて知っていたのと同じで、素敵なイメージそのままだ。決して嫌な人ではない。

 でもその気持ちを上手に言葉にできず、あふれる涙を止めるのに私は必死だった。
 
 他にも、虹磨さんに言わなければいけない言葉もあるのに。

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