わけあってイケメン好きをやめました
「とりあえず出よう」


 泣いていると目立つからだろう。虹磨さんが私の背に手を添えながら移動し、お店の出入り口から私を先に外に出した。
 手早く会計を済ませて戻ってきた彼は、私を連れて車を置いている駐車場へと歩を進める。


「そんなつもりじゃ、なかったんです」

「……なにが?」


 車に戻るまで待てなくて、歩く道すがら、私はポツリと言葉を漏らした。
 街灯はあるものの夜だから薄暗くて、今の私にはこのほうが話しやすい。


「軽い気持ちで動画サイトにアップしたらバズっちゃって。絶対に身元を隠し通そうとか、最初はそんなふうに思ってなかったんですけど、虹磨さんと美和さんがカフェで私を探してるのを知って、なんだか怖くなってきて」

「怖い? 俺が?」


 心外だとばかりに虹磨さんが立ち止まって尋ねた。


「いえ、そうじゃないです。私は有名になるつもりなんかなくて、音楽は趣味で楽しめればいいから……」

「俺がスカウトするとでも?」

「そ、そこまでは思ってないです!」


 そんなおこがましい考えなど微塵もなかったと言えば嘘になる。
 もっと他の曲も歌えだとかプロデュースしたいとか、万が一そんな話が来ても困るなと、ほんの少しだけ考えた。

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