わけあってイケメン好きをやめました
 私はただ、ギターを弾いていたかった。頭に浮かんできたメロディーを(かな)で、そこに詩を乗せて歌っていただけだ。
 どうせなら誰かに聴いてもらいたい、その気持ちはあった。あったけど……それ以上どうこうする気はまったくなかったから。


「カフェで美和さんに動画を見せられたとき、正直に自分だと言えず、すみませんでした」


 謝罪の言葉を、やっと言えた。
 ずっと心に引っかかっていたものが取れて、気持ちが一気に楽になっていく。

 ここ最近は言いだすタイミングがなかったとはいえ、もっと早く白状してしまえばよかったと、後悔の念が押し寄せた。
「大和さんにも謝っておいてください」と付け加えると、苦笑いの笑みをたたえて虹磨さんはうなずいた。


「あの曲、自作だろ? アレンジしたらもっとよくなるけど……そんなに前に出るのが嫌か?」

「目立ちたいわけではないので」


 涙を拭い、肩をすぼめてヘラリと愛想笑いをすれば、虹磨さんはどこか納得したような顔をした。


「あの頃、元カレと別れて心がズタボロで……。でも、作曲したりギターを弾いてると、気持ちが落ち着いて癒されたんです。音楽は以前から好きでしたけど、元カレがミュージシャンだったのも影響して……」


 私はなにを喋っているのだろう。口にしなくてもいいことまでペラペラと。

< 69 / 151 >

この作品をシェア

pagetop