わけあってイケメン好きをやめました
 虹磨さんの迫力のある低い声に押されたのか、彼女はしょんぼりとうつむき「私じゃダメだから頼んでるのに……」と小さくつぶやいていた。


「とにかく、絢音との復縁はない。つきまとったら許さないと、その男に言っとけ」

「で、でも……」


 それでもなんとか食い下がろうとする彼女に、背の高い虹磨さんは真正面から腰をかがめて視線の高さを合わせた。
 高圧的なのか穏やかなのかわからなくて、相手も戸惑っている。


「絢音はまだ二十三なんだよ。純真な女を、お前らが(けが)すな」


 虹磨さんの低い声が、私の胸にもズドンと響いた。
 最後に言ってくれた言葉に感極まって泣きそうになってしまう。

 そのあと彼女はフイッと私たちに背を向け、なにも言わずに立ち去って行った。ホッとして体中の力が抜けそうになる。


「虹磨さん……どうしてここにいるんですか?」

「俺はここの裏通りのスタジオに大和と居て……って、そんなことより、大丈夫か?」


 虹磨さんが心配そうに私の顔を覗き込んできた。
 助けてもらったのはありがたいのだけれど、偶然通りかかったのが虹磨さんだったのは正直微妙だ。

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