ひととせと、マタタビ
「―――桃子さん」
練習後、部室から出て階段を降りると柊璃くんが立っていた。
「柊璃くん?お疲れ様、どうしたの?」
「一緒に帰りませんか、いや、帰ってください。
…桃子さんに頼りたいんです」
なんで私。
…もしかして私が柊璃くんが好きなことバレてたり?
行きましょう、と柊璃くんは私の手を握る。
わわわ、まずい。
好き。好きすぎてごめんなさい。
「なんでって顔に出てますね
桃子さん頼りになるし、それに彼氏いますよね、兄に聞きました」
「いませんけど!」
つい大きな声を出してしまう。
なに、その誤情報。
兄というのは、私たちの学校の教師をしている影璃(えいり)先生の事。
新任で今年からこの高校に来た。
基本すべてにおいて無気力、加えて面倒くさがり屋。顔はキレイなのに勿体ない人だと思う。
屑オブ屑、という肩書きのある先生。
「よく一緒にいるって聞きましたけど」
「…織のこと?
そういえば織、今日彼女できたよ。さっきメッセージきてね、心釉ちゃんっていう一年生の…」
夏休み前に、織達が二人で帰っているのを見かけて後ろ姿をパシャリと一枚撮ったことがある。
盗撮だけど、織は喜んでた。
それを見せようとした時、柊璃くんの顔が引きつっていることが分かった。
まさか、
「心釉ちゃんが、幼馴染なの?」
「…そうですよ。知らなかった、桃子さんと仲良いの織先輩だったんだ」