ひととせと、マタタビ
…廊下のほうから大好きな人の声がする。
きっと振り返れば柊璃くんがいるんだろう。
終わった。サヨナラ私。
私、さっきなんて言ってた?
もう頭が回ってくれない、動いて。
「汐桜ありがと。
奏多下で待ってるんだよね、私ちょっと職員室寄らないとだ。じゃあまた来週ね、気をつけてね」
真っ白な頭の中から必死に言葉をひねり出す。
柊璃くんがいるであろう方向には顔を向けずに教室を出て走る。
ごめんなさい柊璃くん、心がまだ準備中なんです。
あと少しだけ待ってくれれば、私から、
「桃子さん、待って!」
思わず振り返れば、走って追いかけてくる柊璃くん。
陸上部と鬼ごっこは反則でしょ!?
無謀だ。
「なんですか、次はスポーツの秋ですか?負けませんけど!」
「負けました!負けましたからもう走らないで!」
「桃子さん走ってるじゃん!」
声を出しながら走ったせいで体力ももう限界で、階段を下る直前、柊璃くんに手を掴まれて逃走失敗。