アクセサリーは 要りません
「到着」

「運転ありがとうございました」

「いえいえ」

鹿も人も歩いている。多分コロナでなければもっと人が多かったのであろう閑散とした雰囲気。もちろん、私たちも歩いている人もマスク姿。少し歩いたところから、森の道に入っていった。

「なんだか厳かな気持ちに。
風も違う気がします。

至誠の渡り廊下の風もほんわかして
東京と違った風で好きなんです。
あそこに行くとのんびりした風に
癒されて好きなんですよね。
ここの風も背筋がぴんと伸びて
違う癒され方をしますね」

「そうだね、早朝は、特に冬は、
もっと空気が澄んでいて良いんだよ。

それでね、渡り廊下だけどね。
あそこさ、いろんな場所から
見えるって知ってる?

始業式の後、直ぐに教室行かず
佇んでいたでしょ?
あっちこっちから生徒にも先生にも
見られていたよ」

「え、、、うそ」

鳥居が見えてきていたのに、ショックで一度立ち止まった脚が動かない。

「ほら行くよ」

山口先生は振り返り声を掛けたが、私は動けない。

「ふっ、歩けない?
そんなにショックだった?
誰からも何も言われてないんだろ?
だったら、許容範囲なんだよ。
だから大丈夫。
お腹空いていたら悪い事しか
頭に浮かばないよ。
ほら、食べに行くよ」

そう言われても動けない私に、山口先生は手を伸ばし、そして手を掴んで引っ張って歩き出した。
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