アクセサリーは 要りません
そう言って彼女はにっこり笑った。その笑顔を見た途端、俺は再び彼女の手を掴んでいた。やばい、マスクで半分しか顔が見えていないのに、今のは心が掴まれたかも。

支払いとかの時の、俺のちっぽけな男のメンツを立てつつ、でも、俺だけが払うっていうのは嫌ってことか?

手をつないで、少し前を歩かしてはくれるけれど、さっきみたいに俺が引っ張っているわけではない。少し後ろを歩くけれど、自力で歩きたいんだな?

俺が疲れていたら後ろから押してくれたり、逆にさっきみたいに引っ張って歩く時もあるかもしれない。

そういう関係が良いって事?

並んで一緒に歩こうって事だよな。じゃあ、2人で手を繋いで並んで歩いてみるか?

これで断られたら、2人で出掛けるのは今日が最後だな。

そうだ、俺は、家族とか仕事とか用事とか何かがない男女2人が、どちらも下心なく出掛けるなんて信じられないって思っていたんだ。じゃあ今日は何?下心があるのは俺?俺だけ?そっちも?今度はゆっくり返事を待つよ?

「この先も、さっきみたいには
引っ張らないから手をつなぐ?」

「そうですね、さっきより人も多いし
つないでいた方が逸れないですね」

忘れていた。しっかりしているようで、この人天然の中の天然だった。一気に気が抜けた。意識しているのは俺だけか?

暫く、たわいもない話をしながら、手をつないで横で並んで歩いた。時々Doe eyesの目で見上げてくる。なんだろうか?この癒される感覚は。誰かといてこんな感覚は初めてだ。
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