バーチャル彼氏
私はというと、何か口にするとボロが出そうで、何もいえなかった。


「じゃ、ここで」


やっとクラスの前まで来て、ホッと安堵のため息を漏らす。


「じゃ、またね」


桃子がパタパタと大きく瀬戸君に手を振る。


瀬戸君は手を振り返しつつ、私の方を見て、軽くウインクしてみせた。


うっ……。


そのキラキラしたクールな王子オーラに、一瞬ドキンッとする。


っていうか、ウインクって……。


他に生徒がいないからって、恥ずかしくないのか?


なんて考える。


瀬戸君といい、向日葵といい。


王子様キャラってなんでこんなに輝いてて、自分勝手で、恥ずかしげもないんだろう。


そこが魅力といえば、そうなんだけど……。


「あ~ら、おはよう。泉さん」


その高らかなソプラノ声に、背筋がゾクッとする。


声の持ち主は、もちろん伊藤エマ……。
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